天穹に蓮華の咲く宵を目指して
   〜かぐわしきは 君の… 2

 “安息日(シャバット)"  前編



天部とは、密教に於ける神々の尊格であり、
仏陀の教えを守護する神々、仏教護法善神のことを指し、
特に重視されている諸尊十二柱を“十二天”と呼ぶ。
そもそもは既存の神々で、
例えば、梵天はインドの古代神ブラフマーが取り入れられた存在で、
元は宇宙創造の神であり、
帝釈天はバラモンやヒンドゥーにも登場する天帝、最強の武神インドラだ。
新しく生まれた教えを人々へと説く布教の際、
既存の宗教で言えば…と引っ張り出されたものが、
遠く遠くへと広まるうち、そのまま定着するのはよくある話で、
これを“習合”といい。
ここまで時代が経ってしまっては、
もはや大元がどうであれ、立派な仏教ファミリーと見ていいのではなかろうか。

 …何か偉そうですいません。

 ※ちなみに、
  弁才天もやはり元はヒンドゥー教の女神であり、
  ただし日本では何故だか神道の方へ習合されていて、
  七福神の一員にされてもおいで。
  そのせいか、
  天部の像は本来
  守護神として寺院の入り口や本尊の周辺へ安置されるものだが、
  彼女
(…こら)と毘沙門天(大黒天)は、
  本尊扱いをされているケースが多々ある。

このシリーズでもちらちら使わせていただいている“神通力”という言葉も、
仏としての法力を高めた末に得られる秘術にして、
“神に通じる力”という意味かと思われ。
人が悟りを開くことで解脱し仏となるのが仏教で、
開祖の仏陀様は、後進を導く“目覚めた人”。
神様を讃え崇める宗教ではないため、
天部らは、あくまでも保護し補佐する存在に過ぎないが、
仏教の教えを展開する上では必須の象徴でもあり。
ブッダ様同様 彼らも実在したならば、
そりゃあもうもう、なかなか手ごわいお歴々でありましょうて。





     ◇◇◇


都心ほどではないけれど、
それでも“日本の原風景”なんて言われるほど鄙びた土地でもなし。
車も多いせいか、日ごろはどこかくすんだような空ばかりなものが。
さすがに八月の半ば、もうすぐお盆ともなれば、
陽差しにも勢いが増すものか。
出来のいい紗に油を染ませたような、
どこにもムラのない濃密な青い空が広がっている。
そして地上は 途轍もない酷暑に見舞われており、
それが嵩じてのこと、雄渾なまでの積乱雲が沸き立てば、
地表を蹴立てるほどもの夕立ちが襲い来るのだが、
今はまだ午前中でそこまではいかぬ。
とはいうものの、
途轍もない圧を生身にも感じるほどの蒸し暑さは半端ではなくて。
早朝のうちはあれほどにぎやかだった蝉たちも鳴りを潜めているし、
夏休みのはずだが、子供たちのばたばたという駆け足の音も喚声も聞こえない。
町じゅう丸ごと、時が止まったかような静寂が満ちており。
それを尚のこと深めるように、
どこか遠くの軒からだろう、風鈴の音がたまにかすかに届くばかり。

 「………。」

そんな静謐が なおなお重い一室にて、
沈黙の中、向かい合っている存在がある。
片やは その部屋の住人で、
最初は四角く正座していたものが、
緊張への対抗としての力みが出た末のことだろか、
やや膝が開いての“割り座”となっており。
小さな卓袱台を挟んでの向かい側に座す存在の反応を、
黙したまま じいと拾い上げている。

 「……。」

その相手はというと、先程からずっと、
数枚ほどの上質紙を手に、それはそれは念入りに見据えており。
まずはザッと眸を通してから、
その内容の流れを念入りに精査してか視線が止まること数刻。
続いて、描かれた筆致の細部をようよう確かめていたようで。

 「……はい、結構ですよ。お預かり致します。」

そうという一言が告げられると、
やっとのこと緊張が解けたものか、
ほうという息が洩れ、肩が見るからに落ちたほど。
いくら仏陀様とはいえ、まんが家というアーティストである以上、
編集者からの評は真摯に受け止めねばならぬ。
それがたとえ、日頃から何かと振り回されている梵天が相手でも。

 というか

そも、職業まんが家となるまでのつもりも、実はなかったブッダであり。
たまたまひょんなことから描いてみた処女作が天界で大受けしたことが、
彼ら天部のプロデュース魂に火を点けたらしく。
生活費のあてになる原稿料も出すというお誘いから、
第2話掲載の依頼を引き受けて以降、
コトあるごとに
修羅場という苦行つきの原稿依頼を受ける羽目になっておいで。

 「こちらが、今回の原稿料です。」

6ページとカラー表紙で、
洒落ではありませんが色もつけさせていただきましたと、
少し厚みのある茶封筒を渡されて、
思わずのこと、ふうと再びの吐息が一つ。
夏もなかなかに出費が多くて、臨時収入があったのは何をおいてもありがたいこと。
とはいえ、

 「今回のはどういう苦行のつもりですか?」

それだけの内容を、何と3日でといきなり押し付けられてしまったのだから、
無事に片付いたとは言え、
今後を思えば一応のクレームも言っておいた方がと、
そこはブッダも斟酌なしの口調で責める。
一旦クリア出来たれば、
今後へのスキルとしてこれを“余裕で”と上書きされかねないからで。
だがだが、

 「おや、言いませんでしたか?
  本来の執筆予定だった毘沙門天せんせいが、
  ペットの白ネズミたちの夏ばてで
  てんやわんやなさってて……。」

よって、今回は急な穴が空いてしまっての代筆のお願いだったのですよと、
彼の側の事情とやらを繰り返すのみの梵天であり。
それを聞く限り、何かを謀っての、
若しくは、不可能への挑戦を仕立てたつもりは毛頭ないらしかったものの。
相すみませんがと口では言っていたものの、
依頼のその時だって、
堂々と胸と声を張ってという居丈高な押しかけようをした、
相も変わらず厚顔無恥の憎い人。

 「……っ。」

こちらだって眼ヂカラの強さでは負けてはいない。
イエス様のそれのよな
ややそげた頬や細い鼻梁による、欧州系の彫の深さにこそ及ばないが、
こちらだとて東南アジアのイケメン大国、インドの生まれだ。
意志の強さを表す、それはくっきりとした双眸を力ませれば、
その強靭な頑迷さがますますのこと際立って。
年の差による威容や鷹揚さには引かぬぞという、
こちらこそ明らさまな戦意をさえ表出させておいでだったのだが、

 「…あ。」

そんなブッダの視野に入ったのが、起床時に使っている小ぶりな目覚まし時計。
早起きがもはや体内時計へ組み込まれているブッダには不要のそれだが、
時々バイトに出るイエスが、
自分のため…というよりブッダに起こしてもらうためにと使っておいで。
布団を畳んだ昼のうちは、ブッダがテレビ台かJr.の台座へ片づけるところだが、
昨日今日は急な修羅場だったため、細かいところまで気が回らぬままであり。
小さな時計もまた、壁際の適当なところへ放り出されていたようで。
その時計が、そろそろ正午ですよという時刻を示しているのへハッとする。

 「もう御用はお済みでしょう、お帰りください。」
 「おや。」

てっきり、千日戦争ばりの睨み合いなり、
丁々発止の舌戦なり、始めることとなるかと思ったものがとんだ肩透かし。
ブッダから ふしゅんと一気に戦意が掻き消えてしまったことへ、
梵天が意外そうな声を出し、だが、

 「そういえば、イエス様はどうされたのですか?」

最近では、ブッダの原稿のお手伝いもこなしておいで、
すぐ前の原稿へもかなりのご尽力をいただいたとか、と。
そちらは さして焦りもしないまま、
大判の書類袋へ原稿を収めつつ、
狭い部屋なのだから見回せば居ないことは判るだろう、不在の同居人のこと、
もっと突っ込んで訊く彼なのへ、

 「どうもこうも。今日は町内会の合同作業の日だったんですよっ。」

わざわざ応じるのも業腹だが、訊かれた以上は無視も出来ぬ。
そこでと、せめてもの抗い、投げつけるよな口調で答えてやったれば、

 「おお、それではイエス様は、そちらへお一人で。」

成程成程と白々しくも、
説明を聞かねば判りませなんだという態度を取る梵天だが、
それもどうだかと、ブッダには到底素直には受け取れない。
何しろ用意周到な彼のこと、そのくらいは直前に下調べしているに違いなく、
よもや、イエスが戻って来るのを見計らっているのではなかろうなという、
猜疑の心がムクムクと沸いて来るほどで。
何せ、

 “人のいいイエスのことだから。”

彼がまだ居ると知ったなら、
気を利かせて 席を外すべく再び外へ出掛けるやも知れぬ。
はたまた、何かお話ししましょうかと梵天へも持ちかけるやも知れぬ。
どっちにしたって梵天を帰す機を失することとなるし、
そんなことより もっと手痛いのが、

 “せっかくの二人きりの時間を…っ。”

それでなくとも、この理不尽な突発原稿のせいで
一昨日からこっち、ろくに見つめ合ってもいないのに。
ちょうど今と同じような位置関係で、一応向かい合ってはいたけれど、
蒸し暑い中、墨汁の匂いに囲まれて、
ただただじっと原稿用紙ばかり睨んでいただけのブッダであり。
イエスの側とて、俯いてばかりな自分の螺髪しか
視野には入って来なかったに違いなく。
そんな無限地獄から やっとのこと解放されたというに、
何が悲しくて、最愛の人・イエスではなく、
こんな暑苦しい“強引ぐ マイウェイ”な男と向かい合い続けにゃならぬのか。
帰れと言ったにもかかわらず、今のやり取りでちゃらにする気か、
聞こえなかったかのように腰を上げない彼なのへ、
今度こそ…殺気さえ帯びつつ、ブッダが眉間のしわを深くしかかったその時だ。

 「たっだいま〜。」

どれほど焦がれた帰途か我が家か、
二階へ上がるステップや、外の短い廊下を大きめの歩幅で駆けて来たらしく。
足音を感じたそのまますぐにもという短さで、
ノックもないままバタンと戸を開け、飛び込んで来たのが、

 「イエスっ。」
 「ただいま、ブッダ。
  暑かったよぉ……あ、梵天さん、こんにちは。」

トレードマークのTシャツGパン姿にスニーカー。
不揃いの濃色の髪をうなじで1つに束ね、
手には やや古ぼけた麦ワラ帽子を持って。
ブッダが待ち侘びたシェア仲間、イエス様が汗びっしょりでのご帰宅で。
たった一人、何のBGMもなしのご登場だというに、
あれほど重々しい沈黙で張り詰めていた、
後半は物騒なまでの緊迫に包まれかかっていたはずの室内が、
あっと言う間に がさごそ・ざわざわという活気に満ちる。
まずはご本人からして賑やかで、
スニーカーを脱ごうとして、だが片方がなかなか引き抜けず、
あれれと玄関先で転びかかり、

 「ああ、ほら落ち着いて。」

しょうがないなあという口調ではあるが、声音は何ともまろやかに、
案じてやりつつ すっくと軽やかに立ち上がったブッダであったが。
とはいえ、真っ直ぐ玄関へは向かわずに、
途中の流し台へまずは向かって、そこにあったタオルを蛇口の下へ。
小気味のいい所作にて ざっと濡らしたそれを手際よく絞り上げ、
自分の手もちょいちょいと拭いつつ、とたとたとやっと玄関へと向かうと、

 「はい。」

結局は手で掴んで脱いだ運びへ、むうと口元が曲がってしまったイエスへ
その場でタオルを手渡していて。
それと交換するように受け取った帽子、
つばの両端を指先で支えてくるりんと回しつつ、

 「これどうしたの?」

暗に、ウチのじゃないでしょと訊けば。

 「ああ、うん。町内会長さんが貸してくれたの。」

うっかり忘れてっちゃったら、
兄ちゃん帽子ないと夏の草むしりはキツイよって。
もうすっかりと顔なじみのおじさんの口まねをしつつ、
自分のうっかりと一緒に あははと笑い飛ばしたイエスだったのへ、
ブッダも“それはいいや”と吹き出しており。

 「ほら上がって、ああ手を洗うんだよ。」

よほどに気持ちがいいものか、
その場に突っ立って、濡れタオルをお顔に押し当て、
汗を拭うというよりも冷たい感触を味わうようにしているイエスを、
ほらほらと笑顔で促す態度も見るからに楽しげ。
わざとらしく梵天を無視しているというよりも、
彼の存在を…その直前のあの鬱屈や重圧も含めて軽々と吹っ飛ばすほど、
イエスへの構いつけが
わくわくと楽しくてしょうがないらしいと見て取れる。

 “…成程ねぇ。”

これはこっちの完敗でしょうかと断じた上で、
そうともなれば、潮時というものも心得ておいでの大おとな。

 「それでは私はこれで。」

この凄まじい酷暑の中でも
緩めもしなかったらしいネクタイもきりりとしているその上へ、
颯爽とした身ごなしで立ち上がり、ジャケットをはさりと羽織る彼であり。
それでなくとも雄々しく逞しい肢体が、
狭苦しい六畳間を圧迫し…もとえ、重厚な存在感を増したものだから、

 「あ・梵天さん、お帰りですか? また…」

よい子のたしなみ、手を洗ったついでに顔も洗っていたイエスが、
すぐ後ろを通過した梵天の、それは切れのある所作を目で追い、
やや慌ててのご挨拶をしかかったものの。
その文言も、ブッダの手により何故だか途中で遮られ、

 「ご機嫌よう。」

凶悪なほど晴れやかな笑顔での挨拶で二人分ということか、
ブッダがそれは滑舌よく述べた一言でくくられて。

 “……………えっと?”

それを受けて立った梵天氏もまた、
何故だか日頃以上にくっきりと、
見た目なのに音がしそうなほどの濃ゆい笑顔でもって、

 「ご機嫌よう。」

同じ言葉を返すものだから。

 “何なに なになに?”

何なのこの一騎打ちぽい空気、相変わらずの険悪さがヒートアップしてないかい?と。
自分が飛び込んだ直前の空気なんて知りもしないイエスにしてみれば、
二人ともが 同じレベルでおっかないくらいだったりし。
そのまま、梵天が玄関から出て行っても、
足音を確かめてでもいるものか、まさかに神通力で彼の行動を追ってでもいるものか、
しばらくほどは油断なく動かずの構えでいたブッダだったが、

 「ブ、ブッダぁ。」
 「あ、ごめんごめん。」

背後から両手がかりで口を塞いでいたの、
今やっと思い出したかのよに、あわわと離してくれて。
何? どしたの、喧嘩でもしてたの?と イエスから訊かれたのへ、
さすがに大人げない態度だという自覚はあったか、
そんなじゃないけどさ…と 言葉を濁してから、

 「イエス、今“また来てくださいね”って言いかけたでしょ?」
 「え? ああ、うん、まあね。」

常套句じゃないとキョトンとすれば、
ブッダはやれやれと、やさしいラインの肩をすくめて見せて、

 「そんなこと言ったらば、
  明日にでもさっそく来かねないぞ?」

え〜? それはいくら何でも言い過ぎでしょうと応じつつ、
ブッダの梵天アレルギーの重症さを、あらためて実感したイエスであった一幕で。

 「それより、物凄い汗だねぇ。」

当然のように肌へと張り付いたシャツを脱ぎ始めているイエスなのへ、
先程のタオルをゆすぎ直して手渡しながら、

 「どうする?
  今からお風呂に行っても、夕方までにまた汗かきそうだよね。」
 「うん。だから、今は体拭くだけにしておくよ。」

髪をうなじで結っていたのは帽子をかぶる都合から。
一旦ほどいて手を差し入れ、わささと掻き回してから、
今度はもっと高いところで束ね直すのへ、
ブッダが横から手を貸すと、

 「ほら、髪は私が結うから。」
 「あ、ダメって。汗臭いのに。」

触ったらダメダメと、頭ごと押さえ込んで逃げを打つ幼さよ。
それだけならば滑稽で済むかも知れぬが、
上半身は裸になっていてのその格好は、ともすりゃあ……

 「天使たちが迫害と勘違いするから、大人しく言うこと聞いて。」
 「………はい。」

  でも、この流れって……いやまあ深くは聞くまいよ。(笑)

ごめんね、汗が染みてて臭うでしょ?と、
渡されたタオルで胸元や腋下、肩口や腰などを心許なく拭きつつ、
依然として恐縮するイエスだったが、

 「何言ってますか、いい匂いだよ。」

イエスって汗までバラの匂いなの?と、
冗談でもなさげにブッダがご機嫌なお顔で言い出すのへと。

 「???」

そんなはずはと、ご当人が怪訝そうに小首を傾げたものの。
あっと何か思いついたそのまま勢いよく振り返り、
手元からいきなり
完成間近だったポニーテイルが吹っ飛んでったのへ
ワッと驚いたブッダの空になった手を捕まえて、

 「それってブッダと居るからだ。」
 「ははは、はい?//////」

いきなり過ぎて、何が何やらと慌てている愛しの君へ、
忘れたの?と、目許をたわめて頬笑む神の御子様。
思いの外 かっちりとした肩の線やら、
剥き出しになると意外と長い首に落ちる陰影が
いやに男臭くて色香まで醸すのが、
まだ昼間というこんな明るい中、
すぐの間近にあらわになっているのへこそ、
うわわと圧倒されかかったブッダ様だったものの。

 「…………あ、そっか。」

イエスの言わんとしているとこがやっと通じた…と共に、

 「ななななな、何だよ、それって。///////」
 「だからぁ。ブッダが好きだよって気持ちの表れっていうか。」

いやもう、とうに明らかになってるコトだし、
ブッダからもアンズの匂いするしと、
それはそれは嬉しそうに微笑う君だから。
凄まじいまでの酷暑で、吸う呼吸がキツイほどな中ででも、
それとは別口の、ほわんと優しい温かいのが、
胸の底のほう、きゅうぅとやわく絞めつける。

 「えっとえと。///////」

今度こそ素直に納得はしたものの、
どうと言えばいいのかなと、ついついもじもじ。
イエスみたいに素直に喜べばいいんだのにね。
好き好き大好きと、思う心は間違いなくここにあるのに、
いつだって喉元まで出かかっているのに。
あの、途轍もなく振り回された日のように、
頑張って告白出来たあの日のように、

  イエスが好きだ、と

たったの七音だってのに
どうしてだろうか、この唇はなかなか動いてくれなくて。

 「……あの、////////」

顔を上げての真っ直ぐ見やれば、
一瞬、真摯な顔になったイエスが、でも、

 「今日は無理しちゃダメ。」

ついと手を延べ、指先でちょいと、
ブッダの唇を蓋してしまう。
え?と、その言いようと、
乾いた指先の熱さと、でも
それは優しい感触にますます真っ赤になっておれば。

 「こんな暑い日なんだもの、螺髪がほどけたら大変だよ?」

私のこの長さでもそりゃあ蒸したからねぇと、
困り顔にて苦笑するイエスなのへ、

 「〜〜〜〜〜もうっ。///////」

ああもう、ああもうっ。
どうしてそうも、君ってばもうっ、と。
他では何かと不器用なくせに、
睦言では こうも鮮やかに一本取ってしまうのが、
激しく照れるやら口惜しいやらなブッダ様。
焦れて震える呼吸のまんま、
ほんの間近に晒されてた肩先へ、
ちょこりとおでこを乗っけてのそして、

 「イエスも何かほどければいいのに。///////」

私だけなんて不公平だと、
ロップイヤーラビットちゃんのお耳よろしく、
優しく傾いたお顔に合わせ、福耳もちょっぴり前へ垂れての
赤くなった頬を隠してしまった構図へこそ、

 “おお〜〜〜〜〜っっ。////////”

 あのね、ブッダ。私がどんだけ沸点低いか知ってるでしょうが。
 それでなくても、
 ブッダって私を萌えさす要素だけで出来てるってのに。
 この2年でどれほど鍛えられたかを持ち出しても
 全然足りないくらい ますますのこと、
 うにむにお口をたわめる困り顔とか、
 おぶおぶって物おじしちゃう素振りとか、
 それは萌えな含羞みのお顔、
 いっぱいするよになってくれちゃって〜〜〜〜、と。

大きく息を吸っての深呼吸をすることで、
欠片さえはみ出させずに鎮火させられるようになったこと。
いつか話せるようになったらいいなと、
ドキドキしながら思っておいでのヨシュア様だったりするのである。

 「それで。草むしりはどうだったの?」
 「うん、それがね。
  この暑さだから、日陰だけで作業しようねってことになったんだけどサ、
  日陰の草むらっていうとトカゲがいるもんだから、
  女子の人たちがキャーキャー言って大騒ぎで。」

集めた草を蹴散らすわ、
日射病でなくの気絶しかかる人は出るわ、と。
新しいTシャツに着替えつつ、
身振り手振りを入れてイエスが臨場感たっぷりに話すのへ。
それは大変と笑いつつ、ブッダもお昼ご飯の支度にかかる。

 「そうそう、
  私たち、若手のホープって期待されてるみたいだよ?」
 「え〜、なにそれ?」

だって皆さんに名前とお顔と把握されてるみたいでサ。
昨日、お風呂の帰りに
三矢さんの前の自販機で2回連続して当ててたでしょとか、
今朝はブッダさん、ジョギングに出て来なかったねぇとか、
いろいろ聞かれちゃったもの。

 「これはもうもう、
  悪戯とか迂闊に出来ないってことだよね。」
 「…君はその歳で
  一体どんな悪戯をする気だったんだい。」

何て他愛のないことなのに、
楽しいっていう笑顔が絶えなくて。
そばにいる君が大好きって想いでいっぱいで。
そうめん手繰って お昼寝して、
銭湯行って それは美味しい晩ご飯食べて…


  ほこほこと幸せな1日は、
  口惜しいほど切ないほど、あっと言う間に過ぎてゆき。


ああ今日はお互いに疲れたねと、
ちょっぴり目許をしょぼつかせ、
イエスも珍しく早いめに布団の上へと落ち着いて。
ちょみっとルーズな正座同士のお膝をくっつけ、

 「あのね、いいかな?」
 「〜〜〜。//////」

大好きな手が、頬をやさしく撫でてくれるから。
うんと言う代わり、頷く代わりに、
そおって睫毛を伏せたら、あのね?
ふわって寄って来たのは
昼間 我が物顔だったのとは全然違う、やさしいお陽様で。

 「……ん。/////////」

親指の先っちょで撫でてた口許へ、
やわらかいのが触れて来て。
はむって挟まれるのも、
はくって咥え込まれちゃうのも無しの、

  今日はじめての、でもおやすみの、
  優しい ちうを貰ったのが、
  思いの外 ドキドキだったのか。

 「………あ。///////」
 「ありゃvv」

ぶわっとほどけての、寝床に広がる深藍色の海だったのへ。
ブッダもイエスも、あれまあと
お互いのお顔を見合わせてしまった、八月某日の夏の宵……。









NEXT


  *番外編よりは少し長めというか、
   流れの連なってるお話を仕立てたいので、
   本編二話目ということでvv
   まずはの このサブタイトルで、後半へ続きますね。
   まま、タイトルと出だしで中味も見え見えでしょうけれど…。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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